筑波大学

研究- RESEARCH -

全身性エリテマトーデスに関する研究

1.全身性エリテマトーデスとは

 全身性エリテマトーデスは、若年女性に好発し、多様な臨床症状を呈する代表的な全身性自己免疫疾患です。近年の治療の進歩により、その予後は改善したと言えますが、ステロイドおよび免疫抑制薬が治療の中心となる現在の治療方針は、長期的なステロイド投与による副作用や免疫抑制薬による感染症が問題となるなど理想的とは言い難く、SLEの病態に見合った疾患特異的治療の開発が望まれています。
 SLEの自己免疫病態は、多彩な自己抗体の出現によって特徴づけられますが、その誘導機序や病原性に関しては未だ不明な点が多いと言え、現在も研究が続けられています。

2.全身性エリテマトーデスに関する研究

1) toll様受容体アゴニストによる全身性エリテマトーデスモデルマウスの解析

 当研究室では、全身性エリテマトーデスの病態に特異的なCD4陽性T細胞サブセットに注目し、toll様受容体(toll like receptor;TLR)7のアゴニストであるイミキモドをマウス耳介皮膚に経皮的に投与することによって、TLR7を発現する形質細胞様樹状細胞が活性化し、炎症性サイトカインの産生が誘導されることで、Th細胞およびB細胞の異常活性化を来し、血清中の抗二本鎖DNA抗体を含む自己抗体の上昇、糸球体腎炎が誘導されるヒトの病態形成過程に非常に類似した表現型を示す全身性エリテマトーデスの動物モデルを使用して、解析を実施中である。本検討において、イミキモド投与後の耳介皮膚の所属リンパ節にあたる頸部リンパ節中、および脾臓のCD4陽性T細胞におけるIFNγおよびIL-10産生の亢進が明らかとなりました。これらの知見は、全身性エリテマトーデスにおいて末梢血中での増加、およびB細胞から抗体産生細胞への分化促進機能が報告されたTh10細胞(Caielli S, et al. Nat Med 2018)と類似したTh細胞サブセットである可能性が考えられ(図)、更なる解析を通じて、その病因的意義を明らかにしたいと考えています。

図

2) 全身性エリテマトーデス患者末梢血における制御性濾胞T細胞の解析

 全身性エリテマトーデスにおいて特徴的な自己抗体の過剰産生には濾胞ヘルパーT細胞(Tfh細胞)が関与しており、これに対して制御性濾胞細胞(TFR細胞)がそれを抑制する機能を有するとされています。当研究室では、ヒト末梢血検体を用いてその詳細を明らかにすることを試みました。全身性エリテマトーデス患者末梢血中TFR細胞は、健常人と比較して、制御性T細胞の機能発現をつかさどる転写因子Foxp3、抑制能に関連するCTLA-4、制御性T細胞の性質維持に関連するIL-2受容体α鎖の発現が有意に低下しており、さらにTfh細胞に対する増殖抑制能も有意に減弱していることが明らかになりました。また全身性エリテマトーデス由来TFR細胞では、抑制性受容体であるprogrammed cell death-1(PD-1)の発現が有意に増加し、全身性エリテマトーデスの疾患活動性と相関する自己抗体である抗二本鎖DNA抗体価とも有意な正の相関関係を示すことが明らかになりました。TFRを低濃度のIL-2で刺激することでTFRにおけるPD-1発現の有意な低下とともに、Foxp3、CTLA-4発現の有意な増加を認めました。以上から、全身性エリテマトーデス患者において潜在的に認められているTFR細胞の抑制機能低下に対して、低用量IL-2療法はTFR細胞の抑制機能を改善させることによって、有効な治療法となり得る可能性が示されました(1)

参考文献

  1. Kurata I, et al. Clin Exp Immunol. 26: 28-35, 2021

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