筑波大学

研究- RESEARCH -

関節リウマチに関する研究

1.関節リウマチとは

 関節リウマチは、自己免疫的機序による関節滑膜への炎症細胞浸潤や進行性の骨・軟骨破壊による関節の変形を特徴とする慢性炎症性疾患です。近年の治療薬の進歩によって病態の抑制が可能となり、その予後が大きく改善していますが、一方で病態の詳細には不明な点が多く、未だに十分な治療効果が得られない患者様もおられます。
 関節リウマチの発症と持続には、様々な免疫細胞や炎症物質が関与することが明らかにされており、膠原病リウマチアレルギー内科ではこれらの詳細を明らかにすることや、新たな診断マーカーや治療法の開発を目的とした研究を実施しています。

2.関節リウマチに関する基礎研究について

1) 当科での関節リウマチ研究の歴史 -関節炎抗原であるGlucose-6-phosphate isomeraseの同定とその応用研究-

 自然発症関節炎モデルであるK/BxNマウスの自己抗原として、体内でユビキタスに存在する解糖系酵素の一つであるGlucose-6-phosphate isomerase(GPI)を同定しました(図1)。GPIのリコンビナントタンパクをマウスに免疫することによっても関節炎が誘導できることから、GPIの関節炎原性が示されました(1)(2)。GPI誘導関節炎モデルに対しては、現在関節リウマチ治療に用いられる生物学的製剤である抗TNFα抗体、抗IL-6受容体抗体、CTLA4-免疫グロブリン融合タンパクの投与により関節炎の改善を認めることから、ヒトの関節リウマチに近似した病態を有するモデルであると考えられます(3)(4)
 GPIは558アミノ酸から構成されているタンパク質であり、当研究室ではGPI誘導関節炎のT細胞エピトープを同定し、関節炎誘導に重要なエピトープが、GPI325-339であることを明らかにしました。GPI325-339ペプチドを免疫し、百日咳毒素を腹腔内投与することで、GPI誘導関節炎モデルと同様に免疫後1週間程度から早期に関節炎を惹起することが可能であり、世界で初めてのペプチドを用いた関節炎誘導モデルとして報告しています(5)。本研究室では、このGPI誘導関節炎、GPIペプチド誘導関節炎モデルを軸として様々な研究を行い、国内外においてインパクトのある成果を報告してきました。

(図1)

図1

① 新規病因因子TNFα-induced adipose-related protein (TIARP)/ six-transmembrane epithelial antigen of prostate 4 (STEAP4)の同定

 関節リウマチ、およびGPI誘導関節炎で病態・病因に強く関与しているTNFαに焦点をおき、関節炎発症直後のマウス脾臓におけるTNF関連遺伝子の発現変動をGene Chipで解析し、TNF関連分子のうちTNFα-induced adipose-related protein (TIARP)が明らかに強発現していることを明らかにしました。TIARPは、脂肪細胞の分化に関与する分子として初めに同定され、TNFα、IL-6やIL-1により誘導されるとの報告がなされていますが、当研究室の解析ではTIARPが関節炎マウス脾臓および関節に局在し、特にCD11b陽性のマクロファージおよび増殖した滑膜細胞に強く発現することを見いだしました(6)。独自にTIARP欠損マウスを作製し、関節炎におけるTIARP分子の意義をより詳細に検討しました。TIARP欠損マウス (C57BL/6系統) に対して関節リウマチの動物モデルであるコラーゲン誘導関節炎(CIA)の誘導を試みると、関節炎の発症率、重症度ともに野生型マウスと比較して有意に悪化し、炎症部位には多数の好中球、マクロファージの浸潤が認められました。TIARP欠損マクロファージにTNFαで刺激すると、IL-6産生量が著明に増加していたことから、TIARPはマクロファージが誘導する炎症を制御する役割を担い、関節炎の抑制機構に非常に重要な働きをしていることが明らかとなりました(7)(図2)。
 TIARPのヒトorthologとしてはSTEAP4が同定されていますが、当研究室の解析から関節リウマチ患者の滑膜組織においてもSTEAP4発現を確認しました(8)。関節リウマチ患者由来滑膜細胞へのSTEAP4遺伝子導入およびノックダウンを行い、STEAP4過剰発現滑膜細胞はコントロールと比較して細胞増殖の抑制、アポトーシス細胞の有意な増加、TNFα刺激依存的なIL-6およびIL-8産生の抑制が認められました。一方で、STEAP4をノックダウンさせた関節リウマチ患者由来滑膜細胞を用いて同様の解析を行ったところ、IL-6の有意な産生増加を認めました。このことから、RA患者滑膜細胞においてSTEAP4はIL-6、IL-8産生抑制および細胞増殖を抑制することによりヒトにおいてもマウス同様に関節炎を負に制御する分子である可能性が明らかになりました(9)

(図2)

図2

② 濾胞性ヘルパーT細胞による自己抗体の糖鎖修飾

 濾胞ヘルパーT細胞(Tfh細胞)はCD4陽性T細胞のひとつであり、二次リンパ組織の胚中心や末梢血中に存在し、B細胞の活性化を促進する役割を担っています。当研究室では、関節リウマチにおけるTfh細胞の機能的意義を解析し、Tfh細胞にはIL-17を産生するTfh17細胞と呼ばれるサブセットが存在し、GPI誘導関節炎においてTfh17細胞が関節炎の発症とともに増加することを見出しました。Tfh17細胞の表面に発現するOX-40を介してB細胞から形質芽細胞への分化を促進すると同時に、IgGに対するシアル化の責任酵素であるβ-galactoside α2,6-sialyltransferase(st6gal1)の発現を抑制することで自己抗体である抗GPI抗体の低シアル化を促進すること、低シアル化IgGが樹状細胞からのTNF-α産生を亢進させ、関節炎の増悪に関与していました(図3)。関節リウマチ患者末梢血を用いた解析においても、変形性関節症患者との比較においてTfh細胞中のTfh17細胞の比率の増加、さらにその比率が血清中の抗環状シトルリン化ペプチド抗体価と正の相関を示すことが明らかになりました。以上から、Tfh17によるB細胞のst6gal1抑制などの機能変容を介した自己抗体の産生誘導とその低シアル化が、特に自己抗体が関与する自己免疫病態において重要な役割を果たしていることが示唆され、SLEといったRA以外の病態との関連について明らかにする意義があると考えています。

(図3)

図3

参考文献

  1. Matsumoto I, et al. Science. 286: 1732-1735, 1999.
  2. Matsumoto I, et al. Nat Immunol. 3: 360-5, 2002.
  3. Matsumoto I, et al. Arthritis Res Ther. 10: R66, 2008
  4. Iwanami K, et al. Arthritis Rheum. 58 :754-63, 2008.
  5. Iwanami K, et al. Arthritis Res Ther. 10: R130, 2008.
  6. Inoue A, et al. Arthritis Res Ther. 11: R118, 2009
  7. Inoue A, et al. Arthritis Rheum. 64: 3877-85, 2012
  8. Tanaka Y, et al. Clin Exp Rheumatol. 30: 99-102, 2012.
  9. Tanaka Y, et al. Mod Rheumatol. 22: 128-36, 2012.
  10. Kurata I, et al. Ann Rheum Dis 78: 1488-1496, 2019.

2) 関節リウマチにおけるシトルリン化蛋白の意義

 関節リウマチではシトルリン化蛋白に対する抗体(抗シトルリン化蛋白抗体:ACPA)が特異的に検出されることが知られています。しかしながら、ACPAは関節リウマチの診断には有用ですが、疾患の活動性の指標とはならず、ACPA陰性の関節リウマチ患者も存在します。また、活動性指標となりえるC反応性蛋白(CRP)は、関節リウマチ以外にも感染症などでも上昇します。そのため関節リウマチの診断および活動性の双方に有用な特異的バイオマーカーの特定が望まれてきました。
 本研究グループではある種のシトルリン化蛋白が関節リウマチのモデルマウスおよび関節リウマチ特異的に出現することを見出し、質量分析により、この蛋白がシトルリン化したInter-α-trypsin inhibitor heavy chain4(ITIH4)であることを同定しました(1)。血中のシトルリン化ITIH4(cit-ITIH4)はACPA陰性の関節リウマチ患者でも陽性率が高いことから(1)、関節リウマチの診断マーカーとなりえる可能性が明らかとなりました。
 さらに、血中のcit-ITIH4陽性関節リウマチ群では有意に臨床的活動性指標であるDAS-CRPが高く、生物学的製剤による治療で活動性指標とともにcit-ITIH4も減弱することから(1)(2)、cit-ITIH4は活動性の指標にもなりえる可能性があります。また、シトルリン化したペプチドITIH4に対する抗体反応をRA患者血清で検討すると、強い反応がみられ(1)、cit-ITIH4に対する自己免疫応答が起きている可能性が示唆されました。
 モデルマウスの関節内の好中球は、骨髄や末梢血の好中球と比べ、シトルリン化を担うPAD酵素を多く発現しており、好中球を除去すると血中や関節内のcit-ITIH4も低下することから(3)、cit-ITIH4の産生には好中球が深く関与していると考えられます。このモデルマウスでは、PAD酵素を阻害する物質を投与すると、関節炎が改善することも確認しています(4)
 また、ITIH4は補体系の抑制などを介し、本来は炎症を負に制御する働きを持っていますが、シトルリン化によりその働きが変化し、好中球の遊走を促進することが示されました(図4)(3)
 本研究グループでは、現在ITIH4を遺伝的に欠失させたITIH4ノックアウトマウスを作成し、ITIH4やcit-ITIH4の関節炎における役割についてさらに研究を進めています。

(図4)

図4

参考文献

  1. Kawaguchi H et al. Arthritis Res Ther 20(1):66,2018
  2. Ohyama A et al. Int J Mol Sci. 22(14):7633, 2021
  3. Osada A et al. Clin Exp Immunol 203(3):385-399,2021
  4. Kawaguchi H et al. Mod Rheumatol 29(6):964-969,2019

3) 関節リウマチの病態形成におけるCD4陽性T細胞の分化制御

 関節リウマチにおいてCD4陽性T細胞は滑膜に浸潤する炎症細胞の大部分を占め、RAの病態に寄与すると考えられています。
 抗原刺激を受けていないナイーブCD4陽性T細胞は抗原刺激や周囲のサイトカイン環境に反応し、その分化を決定づける特定のマスター転写因子を発現する事で、様々なsubsetに分化しますが、関節リウマチではマスター転写因子を介した分化制御異常が病態に関与する事が指摘されています(1)
 当研究室では関節リウマチ患者末梢血でIL-17A陽性CD4陽性T細胞(Th17細胞)やそのマスター転写因子であるRORγt発現が亢進する(2)事を報告しました。別の報告では、関節リウマチにおいてTh1細胞のマスター転写因子であるT-betは血清中CRPと逆相関するとされます。以上から、転写因子T-bet機能不全を背景としたTh17細胞増加が関節リウマチの病態を形成すると推測されます。
 そこで、当研究室ではマスター転写因子を介したCD4陽性T細胞分化制御と関節リウマチ病態の関連について関節リウマチの動物モデルであるコラーゲン誘導関節炎(Collagen-induced arthritis; CIA)を用いた解析を行いました。T-betを過剰に発現したT-bet transgenicマウスではRORγt発現が抑制されTh17細胞が減少することでCIAが減弱し(3)、Th17細胞分化を促進するaryl hydrocarbon receptor発現が抑制される(4)事を解明しました。また、T-bet knockoutマウスを用いた解析も行い、生理的に発現するT-betもRORγt発現・機能を抑制することで、Th17細胞分化抑制を介し関節炎を抑制する(図2)(5)を報告しました。現在は関節リウマチにおいてT-bet発現に着目した治療の個別化の可能性についても検討を進めています。
 関節リウマチの動物モデルにおいては、免疫応答を負に制御し、末梢性免疫寛容の維持にかかわる制御性T細胞でも転写因子RORγtが発現し、関節炎制御に関連している可能性を明らかにしており(6)(7)、関節リウマチにおける意義についても詳細な検討を進めています。

(図5)

図5

参考文献

  1. Kondo Y, et al. Arthritis Rheumatol. 70(5):653-661, 2018
  2. Kaneko S. et al. Mod Rheumatol. 28(5):814-825, 2018
  3. Kondo Y, et al. Arthritis Rheum. 64(1):162-172, 2012
  4. Yokosawa M, et al. Clin Exp Immunol. 188(1):22-35, 2017
  5. Shimizu M, et al. Sci Rep. (in press)
  6. Kondo Y, et al. Arthritis Res Ther 17(1):105, 2015
  7. Furuyama K, et al. Clin Exp Immunol. (in press)

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